重ねボタン

スーツの重ねボタンについて解説します。

福岡天神オーダースーツ専門店テーラーグレイスです。

重ねボタンとは?

スーツのジャケットの袖口に配置されるボタンには、さまざまな仕様があります。その中でも 「重ねボタン」 は、袖口のボタンを少しずつ重なるように取り付けるデザインで、別名 「キッスボタン(kiss button)」 とも呼ばれます。これは文字通り、ボタン同士が“キスしている”かのように触れ合っている状態からきた名称です。

起源と歴史

手仕事による職人技の象徴

このデザインが誕生した主な背景には、イタリアのアトリエ文化が深く関わっています。イタリアには“サルトリア”と呼ばれる手縫い主体の仕立て技術を持つ職人が多く存在し、彼らの高度な縫製スキルを顕示する目的で、あえて手間のかかる重ねボタンを採用したといわれています。ボタンを5mmほど重ねて縫い付ける技術は、そもそも手作業でしか再現できなかった仕様であり、職人の腕前をアピールするひと工夫だったのです。

デザイン性以外の理由

その他、重ねボタンの背景には機能性よりも「視覚のバランス」を重視した意図もあります。特に現代では、袖ボタンが4個配置されることが多いのですが、そのままだと袖口の長さが強調されすぎてしまうケースもあります。これを軽減し、より上品で整った印象を与えるために、あえてボタンを重ねる方法が採られ、その結果、見た目が引き締まりバランスが取れるようになりました。

重ねボタンの特徴

1. 立体感とアクセント

重ねボタンは、単にボタンをつけるだけでなく、立体的に見せる効果があります。重なった部分が影を生み、袖元に奥行きが加わることで、スーツ全体に華やかさやおしゃれさをプラス。より個性的な印象を演出できます。

2. オーダースーツとの相性

手縫いや糸止めの細部に職人の工夫が大きく反映されるため、オーダースーツとの相性は抜群です。既製品では難しい細かい調整が可能になり、ボタンの配置や生地とのバランスを細かく調整できる点で、オーダーならではの魅力を引き出します。イタリアン仕様としてのステータスにもなり得ます。

3. イタリアテーラードの象徴

イタリアン・サルトリア仕立ての代名詞とも言える重ねボタンは、「イタリアらしさ」を服装で表現したい人にとっての定番デザインです。イタリアン=軽やかでソフト、英国式=構築的でフォーマル、というイメージを袖元で語ることができます。

4. 主に4ボタン仕様との親和性

重ねボタンは、特にボタンが4つ配置される仕様との相性が良いとされています。3つだと重なりが小さくまとまりすぎて効果が薄く、5つ以上だと複雑すぎるという印象になるため、バランスの良い4つ仕様が最もおすすめです。

装いの用途による選び方

  • 冠婚葬祭などフォーマルな場 → 無難に 並びボタン(並び付け)がベスト
  • ビジネスシーンやプライベートで遊び心を → 重ねボタンが最適
  • 本格的なテーラードスーツを → 本切羽で更なる深みを

ディテールの重要性:素材とカラー選び

重ねボタンはデザイン性が高いため、ボタンの素材と色選びも重要です。以下は代表的な素材です。

  • 水牛ボタン:高級感・耐久性が魅力
  • 貝ボタン:光沢と涼しげな印象
  • ナットボタン:自然で落ち着いた風合い
  • ポリエステルボタン:耐久性重視、ビジネス向き

スーツ生地とボタン・糸色を統一させることで、洗練された印象を保ちつつも、あえてコントラストを効かせることでアクセントを狙うことも上級者の技。色糸での“穴かがりカラー”を組み合わせれば、さらに個性を際立たせられます。

ファッションとしての捉え方

オーダースーツならではの選択肢

既製品では選べないような細かなカスタム仕様を楽しめるのがオーダースーツの醍醐味です。袖ボタンもその一つで、オーダー時に「重ねボタンを入れたい」と指定することで、職人がその意図に応じた調整を加えてくれます。これには縫い糸の長さ、形のバランス、位置関係など高い技術が要求され、この違いをわかる人には「さすが」と思わせる効果が期待できます。

ビジネスとカジュアルの狭間

重ねボタンは真面目すぎず、軽すぎず――この“ちょうどよさ”がビジネスカジュアルやプライベートスタイルにぴったりです。職場でスーツに味つけをしたい人や、休日の少しおしゃれなジャケットスタイルを楽しみたい人に向いています。

冠婚葬祭との相性

華やかさが際立つため、厳格な礼装にはあまり適していません。フォーマルな場では、控えめで伝統的な並びボタン仕様を選ぶのが安全です。

コーディネート実例

  1. イタリアン・クラシコ風
    ウール素材で軽やかなネイビースーツ+貝ボタン重ね仕様 → 爽やかさと上品さを演出。
  2. ビジネス街のこなれ感
    チャコールグレースーツ+水牛ボタン重ね仕様 → スタイリッシュかつフォーマルをキープ。
  3. ジャケットスタイル
    リネン混ジャケ+重ねボタン仕様 → 春夏に軽快で“羽織る”雰囲気が際立つ。

メンテナンスと注意点

  • クリーニング時の注意:重ねボタンは高圧プレスで破損する可能性があるため、プレス方法に注意を払う必要があります。
  • ボタン位置の乱れ:着用中にズレやすいため、時折ボタン位置を整えることでバランスを保てます。

まとめ

  • 重ねボタン(キッスボタン)は、ボタン同士が軽く重なり合うデザイン。イタリア仕立ての象徴としても人気。
  • 主な起源はイタリア職人の手仕事アピールで、他にも見た目のバランス改善の狙いも。
  • 4つボタン仕様との相性が良く、素材や色によって多様な表情を楽しめる。
  • 冠婚葬祭には不向きなので、フォーマル場では別仕様を選ぶのが安心。
  • メンテナンス面ではクリーニングの圧、ボタンズレの注意が必要。

最後に

袖ボタンは、見えないところだからこそ奥が深い”洋服の文学”とも言えます。重ねボタンを選ぶことで、他人とは一味違うこだわりと遊び心が伝わります。既成概念に縛られず、自分のスタイルを表現するための“秘密兵器”として、次にスーツを新調するときはぜひ袖ボタンまで意識してみてください。

あなたらしいスタイルが、より豊かになれば幸いです。

 

今回は重ねボタンについての豆知識でした。

福岡オーダースーツ専門店Tailor Grace(テーラーグレイス)